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東京高等裁判所 平成2年(行ケ)188号 判決

名古屋市南区豊代町2丁目73番地

原告

株式会社 タイテック

代表者代表取締役

野村利昭

訴訟代理人弁理士

伊藤研一

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 麻生渡

指定代理人

三谷浩

奥村寿一

田辺秀三

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が平成1年審判第2787号事件について平成2年5月31日にした、平成1年3月28日付け手続補正に対する却下決定を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和55年10月17日、名称を「シーケンス制御装置におけるシュミレート方法、並びにその装置」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願をしたところ、昭和63年12月9日に拒絶査定を受けたので、平成1年2月27日に審判を請求し(平成1年審判第2787号事件)、同年3月28日付けで手続補正(以下「本件補正」という。)をしたが、平成2年5月31日、補正却下の決定(以下「本件決定」という。)がなされた。

2  本件補正に係る特許請求の範囲

(1)  制御対象からの入力信号に応答し、該制御対象の各動作に応じた言語形式にて入力条件が記憶された記憶部材から該入力信号に対応する入力条件を論理ANDにより読込み、読込まれた入力条件に基づいて動作テーブルに記憶された前記制御対象の各動作に応じた言語形式の出力条件を論理ORにて検索して出力信号として出力し、制御対象を所要の動作させるシーケンス制御装置において、

前記シーケンス制御装置に代えて制御対象を、第3の記憶部材に記憶された動作テーブルに基づいて所定動作させる際、表示装置上に前記制御対象の各動作に応じた言語形式にて入力条件と該入力条件に対応する出力条件とを夫々表示すると共に、模擬駆動装置本体により表示された入力条件及び出力条件に基づいてシーケンス制御装置の制御内容を解析可能とし、シーケンス制御装置の制御機能を模擬代行することにより該制御対象の各動作を解析及び確認可能としたことを特徴とする模擬駆動方法。

(2)  制御対象からの入力信号に応答し、該制御対象の各動作に応じた言語形式にて入力条件が記憶された記憶部材から該入力信号に対応する入力条件を論理ANDにより読込み、読込まれた入力条件に基づいて動作プログラムに記憶された前記制御対象の各動作に応じた言語形式の出力条件を論理ORにて検索して出力信号として出力し、制御対象を所要の動作させるシーケンス制御装置において、

模擬駆動させるためのコマンドを指定するためのキー入力装置と、

模擬駆動プログラムが記憶された第1の記憶部材と、

シーケンス制御装置の記憶部材に代えて制御対象を所定動作させる入力条件及び出力条件が配列された動作テーブルを、制御対象の各動作に応じた言語形式により記憶する第3の記憶部材と、

前記第1及び第3の記憶部材から読出された入力条件に及び該入力条件と一致する出力条件を、該制御対象の各動作に応じた言語形式にて表示する表示装置と、

前記第3の記憶部材から入力条件とこれに一致する出力条件を読出して前記表示装置に表示制御すると共に、シーケンス制御装置を介して読出された出力条件を出力信号として制御対象に出力して模擬駆動制御する模擬駆動装置制御手段と、

からなる模擬駆動装置。(別紙図面1参照)

3  本件決定の理由の要点

(1)  本件補正は、特許請求の範囲を前項記載のものとする点を含むものと認められる。

(2)  ところが、特許請求の範囲における「制御対象からの入力信号に応答し、該制御対象の各動作に応じた言語形式にて入力条件が記憶された記憶部材から該入力信号に対応する入力条件を論理ANDにより読込み、読込まれた入力条件に基づいて動作テーブルに記憶された前記制御対象の各動作に応じた言語形式の出力条件を論理ORにて検索して出力信号として出力し、制御対象を所要の動作させるシーケンス制御装置において、」(以下「補正事項」という。)は、願書に最初に添付した明細書(以下「当初明細書」という。)に記載された事項の範囲内の事項ではないし、その記載事項から自明の事項でもない。

以下、これを詳述する。

補正事項における当該シーケンス制御装置について、当初明細書中では、「シーケンス制御装置8は制御対象としての機械9の検出器からの検出信号DSに応答して、該検出信号DSと動作プログラムの入力条件との比較を行い、両者が一致した時、該入力条件に対応する出力条件を読出して、該出力条件を出力信号OSとして駆動部材に出力し、機械を所定動作させる。」と記載しており、ここには、補正事項における「制御対象の各動作に応じた言語形式にて入力条件が記憶された記憶部材から該入力信号に対応する入力条件を論理ANDにより読込み、読込まれた入力条件に基づいて動作テーブルに記憶された前記制御対象の各動作に応じた言語形式の出力条件を論理ORにて検索して出力信号として出力し」という具体的手段をともなうものが、全く記載されていない。

(3)  したがって、本件補正は、当初明細書に記載した事項の範囲内にはない事項に基づいて特許請求の範囲を変更することになり、明細書の要旨を変更するものと認められるから、特許法159条1項の規定により準用する同法53条1項の規定により却下すべきものとする。

4  本件決定を取り消すべき事由

決定の理由の要点(1)は認めるが、同(2)、(3)は争う。

本件補正は当初明細書に記載した事項の範囲内にはない事項に基づいて特許請求の範囲を変更するものであって、明細書の要旨を変更するものであるとした本件決定の判断は誤りであり、違法として取り消されるべきである。

(1)  補正事項におけるシーケンス制御装置は、甲第8号証(特開昭57-52907号公報)記載のシーケンス制御装置と同一のものであるが、同号証のシーケンス制御装置は、「入力信号が予め記憶された動作テーブルと一致した時、入力信号に対応する出力信号を出力して所望の動作を実行するシーケンス制御装置において、入力信号に応答し、該入力信号に対応して予め第1の記憶部材に配列された記憶エリアから入力信号に関する情報のみを読み込むための読み込み部と、読み込まれた入力に対応して予め第2の記憶部材の記憶エリアに記憶された動作テーブルを検索するための検索部と、検索された動作テーブルに対応して、予め第3の記憶部材の記憶エリアに記憶された出力情報を読み出して、出力信号として出力する出力部とを備え、第1、乃至第3の記憶部材の記憶エリアには制御対象の動作に対応した言語形式により、夫々、入力情報、動作テーブル、並びに出力情報が記憶されていることを特徴とするシーケンス制御装置。」である。すなわち、制御対象の動作に対応した言語により入力条件、出力条件、並びに動作テーブルが予め記憶された第1ないし第3の記憶部材を使用し、制御対象から入力される検出信号に応じた入力条件と、入力情報と動作に対応した出力情報とが配列された動作テーブルとが一致した時、動作テーブルの出力情報を出力信号として制御対象の駆動部材に出力し、該制御対象を所定動作させるように構成されている。

(2)  ところで、甲第8号証のシーケンス制御装置における「読み込み部」は、同号証の第2頁左下欄10行ないし17行の記載から明らかなように「アンド条件により入力信号に応じた入力情報を選択して読み込みを行う」手段であり、「検索部」は、同号証の第2頁左下欄18行ないし右下欄6行の記載から明らかなように「入力信号に対応する入力情報とこの入力情報が配列された動作テーブルを検索する」手段であり、「出力部」は、同号証の第2頁右下欄7行ないし16行の記載から明らかなように「入力情報に一致する動作テーブルの出力情報を読み出し、オア条件により加算して記憶部材に一旦記憶させた後、該記憶部材から読み出された出力情報を出力信号として出力する」手段である。

(3)  本願発明の当初明細書には、甲第8号証のシーケンス制御装置における上記「読み込み部」、「検索部」及び「出力部」に相当するものに関して直接には記載されていない。

しかしながら、当初明細書には、シーケンス制御装置につき、「制御対象としての機械から入力条件としての検出信号に応答して、該検出信号と第3の記憶部材に書込まれた動作プログラムの入力条件とを比較し、両者が一致している場合、該入力条件に対応した出力条件を読出して機械の駆動部材に出力信号を出力し、機械を所定動作させるシーケンス制御装置」(第2頁6行ないし12行)、「動作に対応した入出力条件に対し指定した名称による言語形式により動作プログラムを記憶部材に書込み、該動作プログラムを使用して機械を所定動作させうるシーケンス制御装置」(第4頁3行ないし7行)、「シーケンス制御装置8は制御対象としての機械9の検出器からの検出信号DSに応答して、該検出信号DSと動作プログラムの入力条件との比較を行い、両者が一致した時、該入力条件に対応する出力条件を読出して、該出力条件を出力信号OSとして駆動部材に出力し、機械を所定動作させる。」(第6頁3行ないし9行)、「シーケンス制御装置8は検出信号DSに応答して該検出信号DSに対応し、第3の記憶部材5に書込まれた動作プログラムの入力条件を比較・検索し、両者が一致した時、該入力条件に対応した出力条件を第3の記憶部材から読出して機械9の駆動部材に出力信号を出力し、機械を所定動作させる。」(第7頁下から9行ないし3行)とそれぞれ記載されている。(なお、上記したシーケンス制御装置の構成要素である「動作プログラム」(動作テーブル)の具体的構成につき、当初明細書の第5頁11行ないし14行にシュミレーション本体の構成の説明に関連して、「各動作に対応した入出力条件のコードが記憶位置に順次配列された動作プログラムが書込まれた第3の記憶部材5」と記載されており、この「動作プログラム」が記憶された「第3の記憶部材」は、シュミレーション本体の構成要素であるとともに、シーケンス制御装置の構成要素であることは明らかである。)

上記のとおり、当初明細書には、「・・・検出器からの検出信号に応答して、該検出信号と動作プログラムの入力条件との比較を行い、両者が一致した時」と記載されており、上記「読み込み部」及び「検索部」の点は、「アンド条件」は別として、入力された入力信号(検出信号)に応じた入力情報(入力条件)を選択する機能において甲第8号証のシーケンス制御装置と一致している。また、当初明細書には、「該入力条件に対応する出力条件を(動作プログラムから)読み出して、該出力条件を出力信号として駆動部材に出力し」と記載されており、上記「出力部」の点は、「オア条件」及び「記憶部材に一旦記憶させる」ことは別として、動作テーブル(動作プログラム)の出力情報(出力条件)を駆動部材に出力して所定動作させる機能において甲第8号証のシーケンス制御装置と一致している。

なお、入力されたデータあるいは出力されたデータを一時的に蓄えておくため、一般にバッファメモリと称される記憶部材に出力情報とそのデータを記憶させることは周知技術である。

(4)  上記のとおり、当初明細書には、入力信号と動作プログラム(動作テーブル)の入力条件とを判別する論理として「アンド条件」を、動作プログラムの出力条件を出力信号として出力させる論理として「オア条件」をそれぞれ採用することが記載されていない。

しかしながら、シーケンス制御装置の分野においては、複数の入力信号に一致する入力条件を選択する論理として「論理AND」(アンド条件)を、また複数の出力条件から各々の出力信号を出力させる論理として「論理OR」(オア条件)を採用することは、甲第7号証の1ないし5の記載から明らかなように周知慣用の技術であり、当初明細書にはこれらの論理が明記されていないとしても、本願発明がシーケンス制御装置に関するものである以上、当該技術分野の常識からすれば、上記の論理は当初明細書に記載されているに等しい技術事項である。

(5)  以上のとおり、補正事項は、当初明細書に記載された事項の範囲に基づいて特許請求の範囲を変更したものであるから、これを明細書の要旨を変更したものであるとした本件決定の判断は誤りである。

第3  請求の原因に対する認否及び反論

1  請求の原因1ないし3は認める。同4は争う(但し、補正事項におけるシーケンス制御装置が甲第8号証記載のシーケンス制御装置と同一であること、及び当初明細書に原告主張の記載があることは認める。)。本件決定の判断は正当であって、原告主張の違法はない。

2  反論

(1)  補正事項におけるシーケンス制御装置は、甲第8号証のシーケンス制御装置と同一のものである。

ところで、甲第8号証には、入力情報の読み込みと動作テーブルの検索について、「入力信号と対応づけられるべき入力情報を記憶した記憶部(ここには、入力情報が言語形式で表されている)のフラグ操作をした後にアンド条件に従ってフラグ操作により0→1に変化した記憶部の入力情報を選択し読み込み、この読み込まれた入力情報に対応する出力情報を出力する手段として該対応を表す動作テーブルの検索によること」と記載されているところ、補正事項におけるシーケンス制御装置も上記の点を具体化条件として選択付加しているのであるが、当初明細書には「言語形式による表現」及び「動作テーブル(動作プログラムの一具体例)の検索」に要することとなる、甲第8号証の上記記載事項について何ら記載されていない。また、甲第8号証には、出力動作について、「ある1つの入力情報(入力条件)に対応して複数の出力情報(出力条件)を有する動作テーブルを検索し、その結果得られる複数の出力情報(出力条件)をオア条件に従って順次加算して記憶部材に出力情報を記憶し、これを順次読みだし、出力信号として出力する」(甲第8号証第2頁左下欄18行ないし右下欄15行)と記載されているところ、補正事項におけるシーケンス制御装置もこの入出力条件対が1対複数の関係をなして動作テーブルに用意され、さらにそこからの出力の仕方にも条件を付加しているのであるが、当初明細書には、このような条件を付加した「動作テーブル(入出力条件対が1対複数の関係をなす)」、及び「出力の仕方(オア条件に従って順次加算して記憶部材に出力情報を記憶し、これを順次読み出し、出力信号として出力する)」については全く触れるところがないので、かかる具体化条件に従う手段までを備えたものとしてのシーケンス制御装置が当初明細書に記載されていると認めることはできない。

すなわち、シーケンス制御装置8そのものの構成に関しては、本件決定において摘示した当初明細書第6頁3行ないし9行の記載に示されるだけであるが、この記載は、処理手段としてコンピュータを用いる一般化したシーケンス制御装置が最低限必要とする基本処理動作の手順を概念的に示したものにすぎず、上記具体化条件に従う手段を備えたものとしてのシーケンス制御装置について述べるものではない。

なお、原告が、シーケンス制御装置が記載されていると指摘した、当初明細書第2頁6行ないし12行、第7頁下から9行ないし3行、及び第5頁11行ないし14行における「第3の記憶部材」の関連動作の記載は、シュミレーション本体2の構成要素でしかなく、シーケンス制御装置8の構成要素ではない「第3の記憶部材」に基づくものである。また、当初明細書第4頁3行ないし7行の記載は、本件出願より先の別出願を引用したもので、本願発明に係るシーケンス制御装置8との動作上あるいは構成上の関連を直接示すものではない。

(2)  甲第7号証の1ないし5の記載は、シーケンス制御装置において論理処理を行う手段を有する場合に、その論理によっては論理要素として「論理AND」及び「論理OR」を構成の一部に用いること、また、論理要素として「論理AND」及び「論理OR」そのものが周知慣用であることを一般的に述べているものと認められるのであり、したがって、本願発明における限定された条件、すなわち「入力信号と対応づけられるべき入力情報を言語形式で表され記憶された記憶部のフラグ操作をした後に『アンド条件(論理アンド)』に従って該フラグ操作により0→1に変化した記憶部の入力情報を選択し読み込み、この読み込まれた入力情報に対応する出力情報を出力する手段として該対応を表す動作テーブルを検索する」、及び「ある1つの入力情報(入力条件)に対応して複数の出力情報(出力条件)を有する動作テーブルを検索し、その結果得られる複数の出力情報(出力条件)を『オア条件(論理OR)』に従って順次加算して記憶部材に出力情報を記憶し、これを順次読み出し、出力信号として出力する」において、かかる「論理AND」及び「論理OR」を用いることが周知慣用であることを裏付ける証拠となるものではない。

したがって、「論理AND」及び「論理OR」は周知慣用の技術として、本願発明の当初明細書に記載されているに等しい技術事項であるとの原告の主張は理由がない。

また、原告が主張するように、入力されたデータあるいは出力されたデータを一時的に蓄えておくために、一般にバッファメモリと称される記憶部材に出力情報とそのデータを記憶させることが周知技術であるとしても、「動作テーブルを検索し、その結果得られる複数の出力情報(出力条件)をオア条件(論理OR)に従って順次加算して記憶部材に出力情報を記憶し、これを順次読み出し、出力信号として出力する」という動作条件において機能する記憶部材が、すべてのシーケンス制御装置において必須かつ周知のものであることを裏付けるものではない。

(3)  以上のように、補正事項におけるシーケンス制御装置には、当初明細書の記載及びそこに記載されているに等しい自明の事項の範囲内にはない条件の付加及び選択によるものが含まれているから、本件決定の判断に原告主張の誤りはない。

第4  証拠

証拠関係は書証目録記載のとおりである。

理由

1  請求の原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。

2  そこで、本件決定を取り消すべき事由の存否について検討する。

(1)  補正事項におけるシーケンス制御装置が特開昭57-52907号公報(成立に争いのない甲第8号証)記載のシーケンス制御装置と同一のものであることは当事者間に争いがなく、同公報の特許請求の範囲の項には、「入力信号が予め記憶された動作テーブルと一致した時、入力信号に対応する出力信号を出力して所望の動作を実行するシーケンス制御装置において、入力信号に応答し、該入力信号に対応して予め第1の記憶部材に配列された記憶エリアから入力信号に関する情報のみを読み込むための読み込み部と、読み込まれた入力に対応して予め第2の記憶部材の記憶エリアに記憶された動作テーブルを検索するための検索部と、検索された動作テーブルに対応して、予め第3の記憶部材の記憶エリアに記憶された出力情報を読み出して、出力信号として出力する出力部とを備え、第1、乃至第3の記憶部材の記憶エリアには制御対象の動作に対応した言語形式により、夫々、入力情報、動作テーブル、並びに出力情報が記憶されていることを特徴とするシーケンス制御装置。」と記載され、発明の詳細な説明の項には、入力読み込み動作、動作テーブルの検索及び出力動作について、「中央演算回路11は入力信号IS1~ISnに応答して、入力メモリ4における入力信号IS1~ISnに対応する記憶エリアのフラグを0→1に変化させると共に、第1の記憶部材5における入力信号IS1~ISnに対応するフラグを0→1に変化させた後、アンド条件に従って入力信号IS1~ISnに対応した入力情報のみを選択し読み込みを行う。〔入力読み込み動作〕 次に中央演算回路11は第2の記憶部材7に記憶された動作テーブルを順次読み出し、入力情報と動作テーブルとを比較して、両者が一致した時、第3の記憶部材8に記憶された入力情報に対応する出力情報を読み出して記憶部材10に記憶する。反対に両者が不一致の場合、アドレス信号の切換により第2の記憶部材7に記憶された動作テーブルを順次ステップさせて入力情報に対応する動作テーブルの検索を行う。尚、入力情報と一致した出力情報が複数有る場合、中央演算回路11はオア条件に従つて出力情報を順次加算して記憶部材10に出力情報を記憶する。〔動作テーブルの検索〕 中央演算回路11は動作テーブルの検索が終了した後、記憶部材10に記憶された出力情報を順次読み出して、入出力ポート9を介して夫々の駆動部材D1~Dn-1に対し出力信号OS1Sn-1を出力し、所定の動作を実行させる。〔出力動作〕」(第2頁左下欄10行ないし右下欄16行、別紙図面2参照)と記載されていることが認められる。

(2)  当初明細書には、甲第8号証のシーケンス制御装置における上記「読み込み部」、「検索部」及び「出力部」に相当するものが直接には記載されていないことは原告の自認するところであるが、原告は、請求の原因4項(3)記載のとおり、上記(1)の甲第8号証における発明の詳細な説明を根拠として、同号証のシーケンス制御装置における「読み込み部」は「アンド条件により入力信号に応じた入力情報を選択して読み込みを行う」手段であり、「検索部」は「入力信号に対応する入力情報とこの入力情報が配列された動作テーブルを検索する」手段であり、「出力部」は「入力情報に一致する動作テーブルの出力情報を読み出し、オア条件により加算して記憶部材に一旦記憶させた後、該記憶部材から読み出された出力情報を出力信号として出力する」手段であるとした上、当初明細書には、「アンド条件」、「オア条件」及び「記憶部材に一旦記憶させる」ことを除いて、機能において上記各手段と一致する事項が記載されており、上記除外部分は周知慣用の技術であるから、本願発明の特許請求の範囲における補正事項は、当初明細書に記載した事項の範囲に基づくものである旨主張するので、この点について検討する。

〈1〉  本願発明の特許請求の範囲における補正事項、及び上記(1)によれば、甲第8号証のシーケンス制御装置と同一のものである補正事項におけるシーケンス制御装置は、入力条件(入力情報)、動作テーブル及び出力条件(出力情報)が言語形式で表され、記憶部に記憶されるものであり、入力情報の読み込み及び動作テーブルの検索は、「入力信号に応答して、入力メモリにおける入力信号に対応する記憶エリアのフラグを0→1に変化させると共に、入力信号に対応する入力情報を記憶した記憶部のフラグをo→1に変化させた後、アンド条件に従って入力信号に対応した入力情報のみを選択し読み込み、この読み込まれた入力情報に対応する出力情報を読み出す手段として、入力情報と入力情報に対応した出力情報とが配列された動作テーブルの検索を行う」(甲第8号証の第2頁左下欄10行ないし右下欄6行)ものであり、出力動作は、「入力情報に対応して動作テーブルを検索し、その結果得られる出力情報が複数ある場合、これらをオア条件に従って順次加算して記憶部材に出力情報を記憶し、これを順次読み出し、出力信号として出力する」(同号証の第2頁右下欄7行ないし16行)ものであることが認められる。

このように、補正事項におけるシーケンス制御装置の入力情報の読み込み、動作テーブルの検索及び出力動作は、原告が、当初明細書の記載事項との対比において、「入力された入力信号(検出信号)に応じた入力情報(入力条件)を選択する機能において一致している」、「動作テーブル(動作プログラム)の出力情報(出力条件)を駆動部材に出力して所定動作させる機能において一致している」とした、シーケンス制御装置としての一般的な機能に止まるものではなく、手段的により具体化された条件が付加・選択されているのであるから、この点を一体的に取り上げることなく事を論ずる原告の主張は、その前提において失当といわざるを得ない。

(2)  ところで、当初明細書に、「制御対象としての機械から入力条件としての検出信号に応答して、該検出信号と第3の記憶部材に書込まれた動作プログラムの入力条件とを比較し、両者が一致している場合、該入力条件に対応した出力条件を読出して機械の駆動部材に出力信号を出力し、機械を所定動作させるシーケンス制御装置」(第2頁第6行ないし12行)、「シーケンス制御装置8は制御対象としての機械9の検出器からの検出信号DSに応答して、該検出信号DSと動作プログラムの入力条件との比較を行い、両者が一致した時、該入力条件に対応する出力条件を読出して、該出力条件を出力信号OSとして駆動部材に出力し、機械を所定動作させる。」(第6頁3行ないし9行)、「シーケンス制御装置8は検出信号DSに応答して該検出信号DSに対応し、第3の記憶部材5に書込まれた動作プログラムの入力条件を比較・検索し、両者が一致した時、該入力条件に対応した出力条件を第3の記憶部材から読出して機械9の駆動部材に出力信号を出力し、機械を所定動作させる。」(第7頁下から9行ないし3行)とそれぞれ記載されていることは、当事者間に争いがない。

しかし、これらの記載は、シーケンス制御装置において、処理手段としてコンピュータを用いる場合に最低限必要とされる基本処理動作の手順を示したものにすぎず、入力情報の読み込み、動作テーブルの検索及び出力動作について上記〈1〉記載のような具体化された条件を備えたものとしてのシーケンス制御装置については全く触れるところのないものであることは明らかである。

また、当初明細書の「動作に対応した入出力条件に対し指定した名称による言語形式により動作プログラムを記憶部材に書き込み、該動作プログラムを使用して機械を所定動作させうるシーケンス制御装置」(第4頁3行ないし7行)との記載も、入力情報の読み込み、動作テーブルの検索及び出力動作について上記〈1〉記載のような具体的な条件を備えたものとしてのシーケンス制御装置について述べたものでないことは明らかである。

〈3〉 さらに、入力情報の読み込み、動作テーブルの検索及び出力動作について上記〈1〉記載のような具体化された条件を備えたものとしてのシーケンス制御装置に「論理AND」及び「論理OR」を用いることが、周知慣用の技術であることを認めるに足りる証拠はない。すなわち、

成立に争いのない甲第7号証の1ないし5によれば、「電気設備技術者のためのシーケンス制御の基本と応用」(社団法人日本電設工業協会編・昭和54年9月20日発行)には、「シーケンス制御における基本機能は一般に論理(AND、OR、NOT等)、時間、記憶の各機能と言われ」(同号証の4第23頁右欄3行ないし5行)、「シーケンス制御回路は、複数の入力の論理的な動作により制御される多数の出力で構成されている。この多数の入出力対を時間的に並列に制御するのが条件制御である。」(同第26頁右欄1行ないし4行)、「条件制御における基本的な制御動作はAND論理(接点の直列接続)とOR論理(接点の並列接続)である。」(同第27頁左欄1、2行)、「以上より条件制御式シーケンサーのプログラムでは、1つの制御列に複数の入力を設定すると、その入力の直列接続が構成され、1つの出力行に1つの入力が設定された複数の制御列を設定すると、その入力の並列接続が構成できることが分かる。」(同頁左欄下から6行ないし2行)等と記載されていることが認められるが、これらの記載をもって、入力情報の読み込み、動作テーブルの検索及び出力動作について上記〈1〉記載のような具体化された条件を備えたものとしてのシーケンス制御装置に、「論理AND」及び「論理OR」を用いることまでが周知慣用の技術であることを裏付けるものとは認め難い。他に、この事実を認めるに足りる証拠はない。

〈4〉 以上のとおりであるから、本願発明の特許請求の範囲における補正事項は、その余の点について検討するまでもなく、当初明細書に記載した事項の範囲内にはない事項に基づいて特許請求の範囲を変更したものというべきであるから、原告の上記主張は理由がなく、本件決定に原告主張の誤りはない。

3  よって、本件決定の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 濵崎浩一 裁判官 押切瞳)

別紙図面1

〈省略〉

別紙図面2

〈省略〉

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